あがた森魚&はちみつぱい『べいびぃろん(BABY‐LON)』発売記念イベント/ハイレゾ試聴体験記(文と絵:牧野良幸)
大ヒット曲「赤色エレジー」で強いインパクトを与えたあがた森魚。そして“日本語ロック”のはちみつぱい。その両者が45年振りに一緒になってレコーディングした。アルバムタイトルは『べいびぃろん(BABY-LON)』である。
『べいびぃろん(BABY-LON)』はもちろんハイレゾ(FLAC 96.0kHz/24bit)でもリリースされている。ちょうどあがた森魚と、はちみつぱいのメンバー鈴木慶一、和田博巳によるトーク&ミニライヴがタワーレコード渋谷店でおこなわれたので、その模様を交えながらご紹介しよう。
NEW RELEASE
あがた森魚&はちみつぱい
『べいびぃろん(BABY-LON)』
<作品解説>
ベルウッド・レコード第1弾アーティストとして「赤色エレジー」で1972年4月デビューしたあがた森魚。同曲のバックバンドを務めたはちみつぱい(当時は「蜂蜜ぱい」)と、45年ぶりにアルバムレコーディング!
全国を巡りライヴを行い、オリジナル作品を毎年発表しつづけるあがた森魚と、 はちみつぱいのメンバーそれぞれがたどってきた音楽活動が重ね合わされ醸し出される、深みのある音像。
また、プロデューサーに当時のディレクター・三浦光紀(はっぴいえんど、大瀧詠一、細野晴臣、高田渡らを手掛ける)を迎え、オリジナルメーカーであるキングレコードからのリリースとなる。
7月にリリースアルバムを中心とした記念ライヴコンサートも決定! このジャパニーズフォークロックの歴史的タイミングは見逃せない。
会場はタワーレコード渋谷店の5階にある“PIED PIPER HOUSE”のコーナー。開演前から早くもファンが集まっている。前の人は床に腰を下ろし、後ろまで通路は人で一杯である。
拍手の中、あがた森魚、鈴木慶一、和田博巳の3名が登場した。若者の溢れるタワーレコードの中だからか、ことのほかダンディーな雰囲気である。これまで積み重ねた音楽的年輪を感じるとともに、自然体な立ち振る舞いが、トーク前からニューアルバムの雰囲気を伝えてくれる。話はその『べいびぃろん(BABY-LON)』のレコーディングから始まった。
あがた森魚「はちみつぱいとは45年ぶりですが……」
鈴木慶一「今回スタジオに入った時、最初はみんな様子見だったのだけれど(笑)、岡田 徹君が「真夜中に歩く」という曲を作ってきたら誘発された」
あがた森魚「そのあとゾロゾロ、曲が出てきたね」
鈴木慶一「レコーディング終盤になると、はちみつぱいのメンバーからも曲が出てきたね」
和田博巳「今回のレコーディングはのべ5日くらいでしたね。1日3曲レコーディングするから、演奏も間違っている場合じゃない(笑)」
アルバムは作詞があがた森魚。作曲もあがた森魚か、はちみつぱいのメンバーによるものである。日常的な言葉を使いながらも幻想的な歌詞、リラックスしながらもタイトな演奏で、時代に流されない“ロック”が聴ける。
和田博巳「オーディオ的なことを話すと、このアルバムはスチューダーのテープレコーダーで“アナログ録音”しました。スタジオに入ると全員同じフロアで。一緒にダーンと音を出して」
ここで『べいびぃろん(BABY-LON)』のハイレゾの話をすると、確かに音が溶け合っているようなアナログ・ライクな音である。バンドの一体感が伝わるサウンドだ。ハイレゾではそんな音の溶け具合、厚みなどが、録ったままのクオリティで届いているようだ。
トークに戻ろう。ここで一旦曲を聴くことにする。アルバムタイトルとなった「べいびぃらんどばびろん」。会場のスピーカーで流れるのはCDではあるが、ほのぼのとしながらも雄大な曲だ。<じゅ、じゅ、じゅ、じゅ、12時頃の>と歌われると、バベルの塔が目の前に浮かんできそうである。
鈴木慶一「この曲ではハモンド・オルガンを弾いたんだよ。ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」みたいに。録音に入る時、“「ライク・ア・ローリング・ストーン」みたいに”と喋っているのが聞こえたので(笑)」
あがた森魚「アル・クーパーね」
鈴木慶一「今回のアルバムは、ほぼセッションで生まれたアルバムですね。過去のはちみつぱいとの録音では大正ロマン的なテーマがあったりしたけど、今回はなくって……」
あがた森魚「最初はコンセプチュアルなものにしようと思っていたけど……今回ははちみつぱいそのものがモチーフとなってこうなった。どのテイクもよくて、みんな聴いてもらいたいくらいです」
もう1曲、「クリーニングはエイハブ」も聴く。あがた森魚と鈴木慶一の掛け合いが面白い曲だ。バックにはブラスセクション。CDで聴いてもいいが、こういう曲もハイレゾで聴くと華やかなのである。低域の充実したバンド音にブラスセクションがキラリと色を刺す。
あとコーラスの面白さも『べいびぃろん(BABY-LON)』の特徴であろう。1曲目の「アポロンの青銅器」からニヤリとしてしまうバックコーラス。そのコーラスについてもトークで触れられた。
あがた森魚「今回はコーラスが多いですね」
和田博巳「コーラスは、いいよねえ」
鈴木慶一「コーラスの録りでは、家が遠い人は先に帰っちゃうから、残った若い人の声がよく聴こえる(笑)。それが今回は面白かった。はちみつぱいでも、ムーンライダーズでもないコーラスになったと思う」
ほかにも面白い話がいろいろと聞けたのであるが、字数の限りもあり、ここでは省略。時間も押し迫ってきたので、司会の人が「トークというものは、だいたい伸びますけどね(笑)」と言ってミニ・ライヴにうつる。ここから、あがた森魚と鈴木慶一のデュオによる演奏だ。
アルバムに収録され、さっきもCDで聴いた「春一番にいかなくちゃ」を披露。アルバム・ヴァージョンはハイレゾで聴くとまろやかなアナログ・サウンドである。しかしここではギターのみの演奏だ。あがた森魚のヴォーカルがむき出しで、タワーレコード渋谷店のフロアの空気を一変させるほど熱演であった。会場の人だけが聴けた貴重な演奏だろう。
この熱気をもう一度おさらいしたい。僕も家に帰って『べいびぃろん(BABY-LON)』のハイレゾを聴こう。そう思いながら渋谷の街を駅に向かった。
ミニ・ライヴの様子。(イラスト・牧野良幸)